黄昏の刻 第16話


いいから帰れ。
嫌だ帰らない。
そんな言い合いを続けてはや数時間。
まもなく夕暮れという頃合いになり、ルルーシュはスザクのことをC.C.に任せて夕飯の下ごしらえを始めようとした時、けたたましい警報が鳴り響き、端末がカチカチと警戒色を点滅させた。

「なんだ?」
「何?」

突然の音に戸惑うC.C.とスザクは、とっさに身を伏せあたりを伺った。

「侵入者だ」

ルルーシュは即警報装置を切り、警備システムの異常を調べた。
スザクは天才的な運動能力と直感でかいくぐってきたバケモノだが、普通の人間であればルルーシュの施した警戒網に引っかからないはずがないのだ。
いたるところに仕掛けられた監視カメラ。
その大半はすでに破壊されていたが、記録はこちらに蓄えられており、それらの映像から犯人が誰なのかすぐに解った。

「シュナイゼルの私兵だ」
「シュナイゼルだと?」

C.C.はスザクをぎろりと睨みつけた。
スザクは時間稼ぎで、シュナイゼルが裏で動き、何かを企んでいたか。
何だ?この不老不死の体か?
だが、睨まれたスザクは、ブンブンと首を振った。

「僕は関係ないよ。ここに来たのも僕の独断だからね」

誰にも相談せず来たんだ。

「じゃあなぜ、シュナイゼルが?」

その時、C.C.の携帯電話の着信音が鳴り響いた。
この番号を知っている人間はわずか数名。
C.C.はすぐに電話に出た。

『久し振りだね、魔女どの』
「シュナイゼルか、一体私に何の用だ?」

今この場に攻め込んできている兵士達の指揮官からの連絡に、スザクはすっと目を細め、辺りを警戒しながら窓辺に移動した。

『そう難しい話ではないよ。私の王を返してもらいたいだけだ』
「私の王、だと?」
『君たちが隠してしまった私の主、ゼロを』

ゼロに仕えよ。
そのギアスのために、シュナイゼルはゼロを主とした。
その結果、行方をくらませたゼロを追い、こんな荒っぽい手で取り返しに来たのかと、元凶であるスザクを睨みつけた。
窓の外を警戒し、すでに臨戦態勢に入っていたスザクは、不愉快そうに視線だけこちらに向けた。

「別に隠してなどいない。こいつは勝手にここに来て、我儘を言っているだけだ。さっさと連れ帰ってくれ」

邪魔だ。いらない。
心の底からの思いを込めて言ったのだが、電話の向こうからはシュナイゼルの笑い声が聞こえてきた。一体何なんだと、C.C.は眉を寄せた。

『仮面の騎士の方ではないよ。君たちが隠していることはわかっている。でなければ、君と仲の悪い仮面の騎士が、そこにいるわけがないだろう?騎士というものは、主のもとへ馳せ参じるものだ』
「・・・言っている意味がわからないのだが?」

嫌な汗が流れた。
スザクも、ルルーシュも、もちろんC.C.も、まさかと思いながらも、出てくる答えは一つしか無かった。

『あの日、死んだのは影武者なのかな?いや、それはないね。間違いなく、あの時、あの場にいたのはルルーシュだった。ということは、あれらは全て演出、手品のように何か仕掛けでもあったのだろうね。わざわざ葬儀までして死んだことを印象づけて、君たちは人々の目から、私の元から、私の王を隠してしまった』

何にも執着しなかった男の、初めての執着。
ギアスに歪められた結果だとしても、初めて手に入れたその感情は、ルルーシュの死とともに不安定な状態となった。
ゼロに仕えよ。
仮面の騎士もゼロではあるが、シュナイゼルの思うゼロはただ一人。
もしそのただ一人が生きているのだとしたら、必ずこの手に取り戻す。
それは仮面の騎士の主ではない、私の主なのだから。

「ルルーシュは死んだ」
『あの子がいないなら、騎士と魔女が同じ場所に居るはずはない。何よりここの警備システムはなかなかのものだね。あの子以外にこれほどのものを用意できるだろうか』

確信があるからこそ、シュナイゼル自ら動いたのだろう。

「事前に用意したものだから、生死など関係はない」
『嘘をつくなら、もう少しシステムを理解してからつくべきだったね。あの子が死んだ後に作られた部品が使われているよ?』

ルルーシュがしまったという顔をしたので、本当に使っているんだろう。

「・・・君って、たまにマヌケな事するよね・・・」
「う、煩い!!」

スザクのしみじみとした呟きに、ルルーシュは顔を真赤にして怒鳴った。

「で、どうする?」
「包囲が狭まってきている。逃げるなら急ごう」

スザクは手早く荷物を担いだ。
C.C.も緊急時用にまとめていた荷物を手にした。
そんな二人を見て、ルルーシュは眉を寄せた。

「・・・なぜ逃げるんだ?」
「なぜだと?シュナイゼルに投降するつもりか?」
「投降も何も、俺は幽霊だ。シュナイゼルの前に出た所で何も問題はないだろう。俺が生きてここに居るわけではないと、さっさと証明すれば終わりだ」
「・・・」

そうだ。ルルーシュの存在は、C.C.が証明しないかぎり誰にもわからないのだ。

「・・・C.C.、ルルーシュはなんて言ってるの?」

当然、声も聞こえない。
焦ったような表情でこちらを伺うスザクを見れば、やはり幽霊のルルーシュは存在その物が希薄なので、普通であれば誰にも存在を悟られることはないのだ。

「それもそうだな。枢木スザク、堂々と正面から出て、ここにルルーシュがいないことを奴らに見せるぞ」
「いない事って・・・いるじゃないか、ルルーシュは」
「普通は、幽霊など誰も信じない。行くぞ」

C.C.は念のため荷物を手に家の外へと歩き出した。

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